@@beloved9 返信ありがとうございます。 正直なところ私は音楽ができないですし(楽譜読めないです楽器ひけないです)、数学は苦手でしたし、歴史はネットで見ただけです。音律にちょっと興味があるのと、音楽を平均人類より聞いているだけです。 三全音については、耳にタコができるほど聞かされた有名曲で申し訳ないですが、大バッハのトッカータとフーガ ニ短調が唯一私の知っているわかりやすく三全音が使われている曲であり(音感もないのでわからない……)、実のところミーントーンが合うのではないかとにらんでいます。 Toccata and Fugue in D minor, BWV 565 (historical tuning) ruclips.net/video/HX6wt0zcycw/видео.html Toccata con Fuga BWV 565 Koopman - Schnitger organ (これはmodified meantone であり、おそらく下に紹介した論文1の73ページテーブル17の音律と同等です) ruclips.net/video/ng4Zbr6AeOQ/видео.html 参考までに、三全音を純正にしたmeantoneも作成しました。意外にくせが少なく、面白いです。歴史的には理想的な調律が行えず、結果(一部)こうした音律になっていたことはあり得るかなと思います。 音律比較その60【Meantone with Pure Tritone】 ruclips.net/video/Pg5e-khC4Cs/видео.html Mozart piano sonata KV.570【Meantone with Pure Tritone】 ruclips.net/video/SNG964Orh60/видео.html 論文、ざっと読みました。 ぱっと思うのは、この論文は音律の指南書として、また音楽を始めた人の「そうして調や、この12鍵盤が存在するのか」という疑問に答えるツールとして、最適のものということです。個人的には、ピタゴラスコンマの説明を2と3の累乗が一致しないというところから説明するのが、やはり正しいということが確認でき、なんだか安心しました。他の素数倍からなる音についてもそうで、明快でかつ深い、が私の総評です。音楽自体が感覚的なもののせいか、理論的数理的に説明する資料は少ないと感じていて、その点からも貴重と思います。 (ちなみにですが、pを素数、nを自然数としたとき、C音からの倍数がp/n^2((n-1)^2 < p < n^2)となるような音のみを抽出した音律を作ってみたりもしていました。あまりうまくいきませんでしたが。実用性を考えて怖気づきましたが、7/4などを採用した方がおもしろい響きになっただろうなと思います。 音律比較その40【pi- original temperament 29】 ruclips.net/video/HAvMLHfu2LM/видео.html) 実のところ、後半はあまり読めていませんし、私の数学的素養が足りませんが、バイオリニストのような無数の音階を扱う音楽家の感覚を、分かりやすく視覚化しており、音律の理解に大きく貢献するものと思います。 (この論文のリンクを各所で紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?) 以下、気になったところです。 ヴェルグマイスターと平均律の関係ですが、以下の論文で 1.A Passable and Good Temperament. A New Methodology for Studying Tuning and Temperament in Organ Music By Norrback, Johan gupea.ub.gu.se/bitstream/handle/2077/15641/gupea_2077_15641_5.pdf?sequence=5&isAllowed=y 26ぺージあたりですが、ナイトハルト(Neidhardt)の提唱した平均律を踏まえたうえでのコメントがあります。”そうだとしても、よく使う三度をちょっと純正寄りにして、調性間の差を出した方が良くない?”みたいな感じで。平均律も悪くないけど、流石にやりすぎじゃない? といったテンションでしょうか。 これに関連してですが、ナイトハルト(Neidhardt)の提唱した音律も、歴史的観点から行くと無視できず、取り上げられるとよいのではと思いました。上の論文の37、38ページあたりにその音律表があります。平均律も提唱しており、平均律が機能することを確かめたうえで、更に教会音楽向けに改良した不均等な音律を作ろうとしたそうです。このうちNeidhardt for a village, 1724はAltenburg Castleのオルガンで採用され、大バッハが絶賛した記録が残っているそうです(82ページあたりから、ちなみにこのAltenburg Castleですが、オルガニストは平均律を所望していたそうです。大バッハの時代からそういう需要があったとは、驚きですね。しかし何故かうまくいかず、残っていたコメントから上の論文筆者が察するに、おそらくオルガンビルダーが平均律に慣れていなかったせいなのではと)。現代でも、色々なcdやホールのオルガンの音律を調べると、ナイトハルト音律にたどり着くことが多いです(どのナイトハルト音律か正確に分かることは少ないですが……。色々なところで情報が錯綜しており、注意が必要です。出典があり詳しい上の論文が一番信頼できるかなと考えています)。個人的には、平均律に大変近く、扱いやすいうえに、独特の色味があるのが優秀と感じています。 戻ってヴェルグマイスター音律ですが、ヴェルグマイスターは1698年に新たに通奏低音用の調律指南を出しています。 Tuning and Temperaments Translation of Werckmeister's 1698 Tuning and Tempering Instructions for Basso Continuo Players polettipiano.com/Pages/werckengpaul.html コンマ形式での定量的な記述ではありませんが、平均律よりのmodified meantoneであり、調律のしやすさを考えても実践的です。参考まで。 解釈例: 音律比較その58【Werkmeister1698 temperament (original interpretation No. 1)】 ruclips.net/video/ttpcQMqj1jc/видео.html Mozart piano sonata KV.570【Werkmeister1698 temperament (original interpretation No. 1)】 ruclips.net/video/MatkkybShrI/видео.html 進んでハモリの考察部分ですが、オクターブは厳密なオクターブより広い方が好ましく感じるという傾向があるらしく(ピアノのみの現象と説明されることが多いですが、これは誤りのようです)、この部分も含めても面白いかなと思います(論題からずれるというか、前提を壊す話になってしまうので、どう話に取り入れるかが難しそうですが。単に私が気になるだけというのもあります)。 1.Jaatinen, Jussi; Pätynen, Jukka; Alho, Kimmo (2019) Octave stretching phenomenon with complex tones of orchestral instruments acris.aalto.fi/ws/portalfiles/portal/39079743/Jaatinen_Octave.1.5131244.pdf 2. Alain de Cheveigné (2023) Why is the perceptual octave stretched? An account based on mismatched time constants within the auditory brainstem pubs.aip.org/asa/jasa/article/153/5/2600/2887915/Why-is-the-perceptual-octave-stretched-An-account Octave Enlargement (or Octave Stretch) 生理的オクターブのストレッチ現象 ruclips.net/video/KX4FxfFwqfQ/видео.html また以下の本は全体的に、物理学的観点から音楽を解明する教科書であり、参考になると思います。 楽器の物理学 www.maruzen-publishing.co.jp/item/b304141.html 失礼しました。
ここまで理解するまで調べる熱意は同世代として素直に尊敬するわ。
ありがとうございます。同世代の人に見てもらえて本当に嬉しいです!
すごい 感服しました
すばらしい、研究です
ありがとうございます。楽しんでいただけて嬉しいです。 演奏でもお楽しみいただけるようになりたいです。
音程の純正さをリサジュ曲線で表すというのは画期的ですね。
それと三中全音が純正に近いということも、いわれてみると納得です。純正と3セント差だったら、中全音5度よりもずっと純正に近いですよね(平均律に慣れた耳だとハモっているように感じるのでは)。今度MIDIで実験してみたいと思いました。
ありがとうございます。
もともとリサジュー自身は(交流電流やオシロスコープなんてあるはずもなく)音叉使って図形を観察してたので、実はこれ原点回帰なんです。
バロック初期ものには(おそらく自然七の和音と思われる)属七で終止する曲があったり、「ナポリの六度にも本場では七限界の純正音程を使うんだぜ(意訳)」とビアンキが書き残していたりしますから、古楽研究には避けて通れないなと。
7/4, 7/5, 10/7, どれも五限界純正律に親しんだ耳には、強烈な違和感ですが、慣れると病みつきになります。バロック時代でも、タルティーニやオイラーは「七限界は協和音だよ派」、ツァルリーノやラモーは「不協和音だよ派」だったみたいですね。数学的に一意に導出できる、という事実と、音程もまた個性の表れだ、という考え方は、別に矛盾しないと私は思います。
チャンネル登録させていただきました。実験期待しています!
VR楽器を作ろうとしているときに”音階にどう形を与えようか...”と音律を勉強し直そうとしたところこの動画に出会い,とても面白い発見がいくつもありました! 三中全音,とても興味深いですね...
中学生でこの研究,ものすごいですね. 私も高校生で昔から数学と音楽に興味があるのですが,とてもこの研究レベルではなかった...
VRでは3次元の座標入力ができることから,従来のキーボードなど離散入力では難しかった7-limit純正やその近似である31平均などの演奏がより簡単になるのではないかと考えています.
リアルタイム自動調律にも興味があるので,論文にお世話になると思います.ありがとうございます.
一つ気になる点が。
2:37~
あたり、キルンベルガー音律がベートーベンやショパンに用いられたとの説明ですが、
これについて直接的な証拠があるのでしょうか?
キルンベルガーの純正作曲の技法を使用していた、読んでいたかもしれないといえる根拠はある、みたいな話は聞くのですが、だからと言ってその音律を使用していたとも限らないよな、と。
他にもモーツァルトはミーントーンを使用したなど、多数こうしたことをいう方がいるのですが、直接的な証拠を見つけられた試しがなく、、、。
新聞にインタビュー載ってました🎉 おめでとうございます㊗️
楽器、バロックバイオリンに変わりました?
内容は難しくて😂リンク先のやさしい説明なら少しわかるのですが。。。
ありがとうございます。よくお気づきになりましたね。これはお借りしているバロック仕様のヴァイオリンです。
うーんこれはすごい。
自然倍音列を見ていくと、第七倍音にやたら低いAシャープが見えて、このE(五倍音)→Aシャープ(7倍音)が恰度5:7になるなぁとは思っていたのですが。
更によくよく考えると確かに、ミーントーンとの繋がりは興味深いですね。
しかしながら裏を返すとウルフをまたぐ三全音は逆に大変広くなるわけでして、具体的用法との対応も気になりますね。
三全音を純正にしたミーントーンとか作ってみようかなと思いました。
(しかしながらコンテストで発表されたとのことですが、内容分かった人いたのだろうか。相当な音楽的教養と、ちょっと数学もできないと厳しいが……)
よく考えると、ミーントーン三全音はウルフをまたいでもきれいな整数比からの近似で表せる点は変わらないですね。
ウルフをまたいだ三全音は広くなりますが、私の計算が間違っていなければ、7 : 10の整数比と3centのずれしかない良い近似ができます。
当然はもりが悪くなることが予測されますが、これでも平均律の三全音よりましという考えはあるかもしれません。
@@user-li8sd5pt3o お返事が遅くなり申し訳ありません。夏休みはひたすら練習や演奏、おまけで登山や宿題に追われていました。数学と音楽と音楽史のいずれも理解しておられる方にご覧いただけて、大変光栄です。ご心配の通り、数学方面からは「音楽はわからない」、音楽方面からは「数学はわからない」と評されることがほとんどで、寂しいです。
ただ、坂本龍右さん、桜井進さんや中島さち子さん、そしてぴーちゃんばななくんさんといったムジクスな方々から暖かい評価をいただくと、寂しさがまぎれます。本当にありがとうございます。
三中全音(1/4コンマミーントーンのしょっぱい三全音)については、まだまだ面白い発見がたくさんありそうです。
ご指摘の「ウルフをまたぐ三全音」=10/7=七限界純正律の広い三全音=七進法の減五度(超四度)=オイラーの三全音? は、例えばJ.S.バッハのチャッコーナ(いわゆるバッハのシャコンヌ)などを読み込む限り、7/5=七限界純正律の狭い三全音=七進法の増四度(副五度)=ホイヘンスの三全音?よりもむしろ多用されていた様子です。バッハに限らない話なのか、ラモーやスカルラッティではどうなんだろうとか、とっても気になります。
論文↓では初歩的なことから書き始めたのでとてもそこまで説明し切れていませんが、「わかっている」方にはぜひお読みいただいてご感想をお聞かせ願いたいです。
drive.google.com/file/d/10p9641CIm8fpDms9OK7j7qbQhg-_BSSC
@@beloved9
返信ありがとうございます。
正直なところ私は音楽ができないですし(楽譜読めないです楽器ひけないです)、数学は苦手でしたし、歴史はネットで見ただけです。音律にちょっと興味があるのと、音楽を平均人類より聞いているだけです。
三全音については、耳にタコができるほど聞かされた有名曲で申し訳ないですが、大バッハのトッカータとフーガ ニ短調が唯一私の知っているわかりやすく三全音が使われている曲であり(音感もないのでわからない……)、実のところミーントーンが合うのではないかとにらんでいます。
Toccata and Fugue in D minor, BWV 565 (historical tuning)
ruclips.net/video/HX6wt0zcycw/видео.html
Toccata con Fuga BWV 565 Koopman - Schnitger organ
(これはmodified meantone であり、おそらく下に紹介した論文1の73ページテーブル17の音律と同等です)
ruclips.net/video/ng4Zbr6AeOQ/видео.html
参考までに、三全音を純正にしたmeantoneも作成しました。意外にくせが少なく、面白いです。歴史的には理想的な調律が行えず、結果(一部)こうした音律になっていたことはあり得るかなと思います。
音律比較その60【Meantone with Pure Tritone】
ruclips.net/video/Pg5e-khC4Cs/видео.html
Mozart piano sonata KV.570【Meantone with Pure Tritone】
ruclips.net/video/SNG964Orh60/видео.html
論文、ざっと読みました。
ぱっと思うのは、この論文は音律の指南書として、また音楽を始めた人の「そうして調や、この12鍵盤が存在するのか」という疑問に答えるツールとして、最適のものということです。個人的には、ピタゴラスコンマの説明を2と3の累乗が一致しないというところから説明するのが、やはり正しいということが確認でき、なんだか安心しました。他の素数倍からなる音についてもそうで、明快でかつ深い、が私の総評です。音楽自体が感覚的なもののせいか、理論的数理的に説明する資料は少ないと感じていて、その点からも貴重と思います。
(ちなみにですが、pを素数、nを自然数としたとき、C音からの倍数がp/n^2((n-1)^2 < p < n^2)となるような音のみを抽出した音律を作ってみたりもしていました。あまりうまくいきませんでしたが。実用性を考えて怖気づきましたが、7/4などを採用した方がおもしろい響きになっただろうなと思います。
音律比較その40【pi- original temperament 29】
ruclips.net/video/HAvMLHfu2LM/видео.html)
実のところ、後半はあまり読めていませんし、私の数学的素養が足りませんが、バイオリニストのような無数の音階を扱う音楽家の感覚を、分かりやすく視覚化しており、音律の理解に大きく貢献するものと思います。
(この論文のリンクを各所で紹介させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?)
以下、気になったところです。
ヴェルグマイスターと平均律の関係ですが、以下の論文で
1.A Passable and Good Temperament. A New Methodology for Studying Tuning and Temperament in Organ Music
By Norrback, Johan
gupea.ub.gu.se/bitstream/handle/2077/15641/gupea_2077_15641_5.pdf?sequence=5&isAllowed=y
26ぺージあたりですが、ナイトハルト(Neidhardt)の提唱した平均律を踏まえたうえでのコメントがあります。”そうだとしても、よく使う三度をちょっと純正寄りにして、調性間の差を出した方が良くない?”みたいな感じで。平均律も悪くないけど、流石にやりすぎじゃない? といったテンションでしょうか。
これに関連してですが、ナイトハルト(Neidhardt)の提唱した音律も、歴史的観点から行くと無視できず、取り上げられるとよいのではと思いました。上の論文の37、38ページあたりにその音律表があります。平均律も提唱しており、平均律が機能することを確かめたうえで、更に教会音楽向けに改良した不均等な音律を作ろうとしたそうです。このうちNeidhardt for a village, 1724はAltenburg Castleのオルガンで採用され、大バッハが絶賛した記録が残っているそうです(82ページあたりから、ちなみにこのAltenburg Castleですが、オルガニストは平均律を所望していたそうです。大バッハの時代からそういう需要があったとは、驚きですね。しかし何故かうまくいかず、残っていたコメントから上の論文筆者が察するに、おそらくオルガンビルダーが平均律に慣れていなかったせいなのではと)。現代でも、色々なcdやホールのオルガンの音律を調べると、ナイトハルト音律にたどり着くことが多いです(どのナイトハルト音律か正確に分かることは少ないですが……。色々なところで情報が錯綜しており、注意が必要です。出典があり詳しい上の論文が一番信頼できるかなと考えています)。個人的には、平均律に大変近く、扱いやすいうえに、独特の色味があるのが優秀と感じています。
戻ってヴェルグマイスター音律ですが、ヴェルグマイスターは1698年に新たに通奏低音用の調律指南を出しています。
Tuning and Temperaments
Translation of Werckmeister's 1698 Tuning and Tempering Instructions for Basso Continuo Players
polettipiano.com/Pages/werckengpaul.html
コンマ形式での定量的な記述ではありませんが、平均律よりのmodified meantoneであり、調律のしやすさを考えても実践的です。参考まで。
解釈例:
音律比較その58【Werkmeister1698 temperament (original interpretation No. 1)】
ruclips.net/video/ttpcQMqj1jc/видео.html
Mozart piano sonata KV.570【Werkmeister1698 temperament (original interpretation No. 1)】
ruclips.net/video/MatkkybShrI/видео.html
進んでハモリの考察部分ですが、オクターブは厳密なオクターブより広い方が好ましく感じるという傾向があるらしく(ピアノのみの現象と説明されることが多いですが、これは誤りのようです)、この部分も含めても面白いかなと思います(論題からずれるというか、前提を壊す話になってしまうので、どう話に取り入れるかが難しそうですが。単に私が気になるだけというのもあります)。
1.Jaatinen, Jussi; Pätynen, Jukka; Alho, Kimmo (2019) Octave stretching phenomenon with complex tones of orchestral instruments
acris.aalto.fi/ws/portalfiles/portal/39079743/Jaatinen_Octave.1.5131244.pdf
2. Alain de Cheveigné (2023) Why is the perceptual octave stretched? An account based on mismatched time constants within the auditory brainstem
pubs.aip.org/asa/jasa/article/153/5/2600/2887915/Why-is-the-perceptual-octave-stretched-An-account
Octave Enlargement (or Octave Stretch) 生理的オクターブのストレッチ現象
ruclips.net/video/KX4FxfFwqfQ/видео.html
また以下の本は全体的に、物理学的観点から音楽を解明する教科書であり、参考になると思います。
楽器の物理学
www.maruzen-publishing.co.jp/item/b304141.html
失礼しました。
@user-li8sd5pt3o 大変心のこもった書評・アドヴァイスをいただき、感謝いたします。何度も読み返しています。
仰る通りナイトハルトの音律については研究史的にも収録が必要だと感じます。
BWV565については、偽作説と並行してもとはヴァイオリンの曲であるという説(さらには復元案ruclips.net/video/Vomxn8S-6GY/видео.htmlsi=Ie2WxsoJ2_ENPOnh
BWV1056Rみたいで面白い!)などもあり、刺激的な教材ですね。
オクターヴストレッチおよびインハーモニシティについては、次の29版に向けて、このような原稿を用意しています。
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ピアノに12平均律が採用されていったもうひとつの理由は、インハーモニシティ(inharmonicity)と呼ばれる物理現象です。超低音の弦は重くするために太くなるため、また超高音の弦は材料強度の限界のために、合成された振動の「節」の部分がそれぞれ理想的な振動ほど曲がってくれず、基音の整数倍よりもわずかに高めにズレた倍音を持ちます。そのため特に硬い材料で広い音域を鳴らそうとする弦楽器、つまりピアノでは、中央の鍵盤から離れるほど、オクターヴを調律するだけでも2倍よりも広い音程になっていきます。オクターヴが伸びるので、こうした調律はオクターヴストレッチと呼ばれます。逆に、オクターヴを正確に2倍にすると、低音・高音域では、オクターヴで鳴らしても響きが濁ります。
このように、どうせ高音域や低音域ではどんどん広がる方向にズレていくのであれば、その影響を少しでも抑えるために、純正な完全五度よりも1.9550…cents狭い12平均律の完全五度で調律してしまった方が都合がいい、という発想で、敢えて12平均律が採用されたのでしょう。もっとも、残念ながらこれでインハーモニシティ問題が解決になったわけではなく、どちらかと言えば焼け石に水です。
upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/ae/Railsback2.png/675px-Railsback2.png
wikipedia「ピアノの音響特性」にある上の図は、「レイルズバック曲線」と呼ばれるオクターヴストレッチの影響を示すグラフで、ピアノの個体ごとに異なるものですが、この例では最高音・最低音のズレは、それぞれ30cents以上に達しています。これを見ていると、12平均律よりもさらに完全五度が狭い中全音律なら、よりインハーモニシティ対策になるようにも思えます。
弦が太くあるいは短くなるほど、また、ヤング率(あのトマス・ヤングに由来する、材料の曲げに対する弾性係数)が高い材料であるほど、インハーモニシティは大きくなります。そのため、例えばアップライトピアノの超高音・超低音で音階を弾くと、ひどく調子外れに聴こえますし、ピアノに合わせる他の楽器も、高音になればなるほど、さらに高めに、逆に低音では、さらに低く取らないと合いません。
RUclipsrかてぃんとしても知られるピアニスト角野隼人は、調律師に聞いた話として「基音を合わせるか倍音を合わせるかで音色が変化するらしい」「倍音で合わせた音はすぐ減衰してしまうとのこと」と記しています。twitter.com/880hz/status/1016348821775835136
@@beloved9
ありがとうございます。
ナインハルト音律については論文の最後に名前が挙がっていましたね。そのほかにも色々ご存じのことを長々書いてしまったと思います、すみません。
BWV565violin説は結構面白いですね。バッハはいろいろメロディとか編成を使いまわしていたので、全然ありうる話ですね。
偽作説というのも、気持ちがわからないこともないのですが、あのオルガンの持続音や音の特徴的な世俗的使用が、どうも大バッハそのもののように思われ、やっぱ大バッハの作品ではないかなぁと個人的には思っています(若いころの作品とか? グレングールドも若いころのバッハは反復進行ばかりで、お世辞にも最高の作品とは言えないとか言っていますし…)。というか、あれほどバッハのようなすごい作品を作れる人がいたとしたら、もう誰が作ったのでもいいじゃんと(笑)。
(音楽の話とは違いますが、この曲が残った最古の譜面の表紙には、あのwell tempered clavier の表紙にあるみたいな、ひげ装飾のついた文字があります
en.wikipedia.org/wiki/Toccata_and_Fugue_in_D_minor,_BWV_565
楽譜を写した人が書いたのか、もともとバッハが書いたものを写したのかわかりませんが、色々面白いです)
原稿についてですが、見方としては面白いですが(確かに暗めの古典音律にしたところ、ストレッチのキラキラ感が気になりづらい気がしたこともありました)、12平均律採用の理由としてインハーモニシティを導入するには、論文として説得できる根拠が必要と思います(その辺すでに用意の上でしたらすみません)。逆に
平均律が採用
→
ピタゴラスに近くなる
→
ピタゴラス音律の旋律美にさらに近づける(結果オクターブが広くなる)
などといった論理も成り立つわけで。
またどうもオクターブストレッチはピアノに限った話ではないし、インハーモニシティのみで説明できるわけでも無い
(ハープシコードにもインハーモニシティがあるが、そのインハーモニシティからの予想から違い、オクターブは正確に調律される傾向にある
楽器の物理学 389ページ
www.maruzen-publishing.co.jp/item/b304141.html
また大体どの楽器でもオクターブが広くなる傾向にある
1.Jaatinen, Jussi; Pätynen, Jukka; Alho, Kimmo (2019) Octave stretching phenomenon with complex tones of orchestral instruments
acris.aalto.fi/ws/portalfiles/portal/39079743/Jaatinen_Octave.1.5131244.pdf
2. Alain de Cheveigné (2023) Why is the perceptual octave stretched? An account based on mismatched time constants within the auditory brainstem
pubs.aip.org/asa/jasa/article/153/5/2600/2887915/Why-is-the-perceptual-octave-stretched-An-account
Octave Enlargement (or Octave Stretch) 生理的オクターブのストレッチ現象
ruclips.net/video/KX4FxfFwqfQ/видео.html
Can Railsback curve also be applied on other than piano? 【"Stretched Octave" phenomenon】
ruclips.net/video/SzyiL-uRCwY/видео.html
)
らしく、この辺も踏まえられると良いかなと思いました(じゃあこの現象どう説明するのよと言われると、困ってしまいますが……)。
この話題で難しいと思うのは、文化的な要因と、生理学的な要因、物理学的要因を容易に区別できないことです。例えば、何人かの人にオクターブを作ってもらうといった実験で"人間はオクターブが広い方が好ましく感じる"と結論できたとしても、それがいつも広いオクターブを聞いているからなのかどうかはわかりません(ピタゴラス旋律が際立って感じるという経験則がある以上、否定は難しいです)。そしてさらにややこしいことに、オクターブの広さにも明確に好みがあるそうです(個人的に、ストレッチなしのピアノで作曲してみたりしていますが、むしろ音階が自然に感じられるメリットもあると感じています)。
参考:
【この精度でピアノを調律しています】ミクロ相対音感テスト
ruclips.net/video/koiG234maB4/видео.html
あと細かいところで恐縮ですが、"中全音律なら、よりインハーモニシティ対策になる"というよりもむしろ、"中全音律なら、インハーモニシティ対策で広がった音階を目立たなくできる可能性がある"ということでしょうか?
(色々うるさくてすみません……)