「ブラックスワン 不確実性とリスクの本質」13 画家のアペレス、あるいは予測が無理ならどうするか

「ブラックスワン 第13章 画家のアペレス」
「ブラックスワン」の第13章では、「画家のアペレス」、または「予測が無理ならどうするか」というテーマについて論じられています。この章では、人間社会や経済において予測不能な出来事にどう対応すべきかという課題が取り上げられています。
まず、タイトルにも登場する「画家のアペレス」は、予測不能性に関する寓話的な存在として紹介されます。古代ギリシャの画家アペレスは、一度にすべてを完成させようとせず、毎日少しずつ作品を進めることで偉大な成果を上げた人物です。このエピソードを基に、著者は「長期的視点で小さな努力を積み重ねることの重要性」を強調しています。これにより、不確実性に対して柔軟に対応し、予測不能な成功をつかむことが可能になるというのです。
著者が提唱する「バーベル戦略」は、予測不能な未来に備える方法として特に重要です。この戦略では、大きなリスクを避けつつ、小さな投資や試みを多数行うことで、突然のチャンスに対応できる状態を作り出します。具体的には、破滅的な損失を防ぐためにリスクを封じ込める一方で、低リスクで小さな損失を許容する場面を多く設け、たまに訪れる大きな成功の可能性を広げるのです。この「非対称性」を利用することで、ランダム性がもたらす利益を最大化します。
人間社会における富のばらつきも、予測不能性が生み出す結果の一つです。株式市場や資本主義では、予測不能な出来事が格差を生み出す原因となります。一方で、社会主義はこの格差を抑えようとしましたが、予測不能性そのものを排除することは不可能です。これが、中央集権的な仕組みの限界を示しています。
さらに、著者は「小さな利益を積み重ねる戦略」を批判し、むしろ「小さな損失を受け入れつつ、大きな利益を狙うべきだ」と主張します。これを象徴する例として、「機関車の前で小銭を集める」ような行動を挙げています。このような行動では、予測不能な大きなチャンスを逃してしまいます。その代わり、普段は損を受け入れ、チャンスが訪れた時に一気に利益を得られるような仕組みを作るべきだというのです。
著者はまた、科学研究や創作活動を例に、種をたくさんまく重要性を強調しています。多くのオプションを用意しておくことで、たとえほとんどが失敗に終わったとしても、一部が大きな成功をもたらす可能性があります。これが、非対称性を活用した行動の具体例です。同時に、大きな損失をもたらす可能性があるものに対しては、慎重で悲観的な態度を取るべきだとしています。
また、この章では「画家のアペレス」の姿勢が強調されています。一度にすべてを完成させようとするのではなく、段階的かつ着実に進めることで、不確実性を前提とした成果を得ることが可能です。たとえば、計画的な政府主導のプロジェクトが失敗するリスクを挙げつつ、個々の小さな取り組みがいかに重要かを説いています。
結論として、「予測不能性を受け入れ、それを前提に行動する」ことが重要だとされています。これは「長く生き延びる」こと、「小さな損を受け入れる」こと、「突然の大きな利益を得る準備をする」ことにほかなりません。ランダム性や不確実性を恐れるのではなく、それを味方につけることが、現代社会において成功を収めるための鍵だと著者は述べています。