「ブラックスワン 不確実性とリスクの本質」11 鳥のフンを探して

「ブラックスワン」第11章「鳥のフンを探して」
「ブラックスワン」の第11章「鳥のフンを探して」では、一貫して予測の不確実性がテーマとなっています。予測は、現在の知識に基づいて行われますが、現代社会の複雑性の中で私たちの知識は限られており、予測に過剰に依存することの危険性が指摘されています。
偶然性とイノベーション
偶然やランダム性を軽視する傾向が問題であり、イノベーションや発見は予測不可能であるとタレブは述べています。例えば、1965年にニュージャージーの研究所で、宇宙からの特殊な放射線が検出されました。当初、研究者たちはアンテナに鳥のフンが付着しているためのノイズだと誤解しましたが、後にこれがビッグバンの痕跡である「宇宙マイクロ波背景放射」であることが判明しました。この発見は、予測や計画ではなく偶然によるものであり、知識の枠外にある現象がどれほど重要かを示しています。
コンピュータ技術の進展も同様です。初期のコンピュータ開発は、純粋な計画の産物ではなく、「面白そうだから」といった好奇心や試行錯誤の結果による部分が大きいとされています。タレブは、イノベーションは偶然性と未知に曝露（エクスポージャ）することでしか実現しないと主張します。
社会主義とイノベーション
社会主義における中央集権的な計画の限界についても触れられています。計画によるイノベーションの促進は難しく、むしろ分散的で有機的な環境が必要です。一方で、中央集権的な社会主義では、資源の配分が管理されるため、創造的な偶然性が抑制される傾向があります。この点で現在の資本主義には優位性があるものの、実装面での課題も残されています。
「三体問題」と予測の限界
タレブは「三体問題」を例に挙げ、自然や社会の動きが複雑すぎて計算不可能であることを示しています。二つの物体間の運動は比較的単純に計算できますが、三つ以上になるとシステムが不安定化し、予測はほぼ不可能となります。この現象は、宇宙物理学の分野でも観察されており、惑星の動きを完全に予測するのが難しい理由でもあります。
誤差逆伝播と予測精度の進化
AIや機械学習では、誤差逆伝播法（バックプロパゲーション）が重要な役割を果たしています。この手法は、進化のプロセスと比較して極めて高速に予測精度を向上させることができます。しかし、どれだけ技術が進歩しても、人間にとって未知で予測できないことの方が依然として多いのが現実です。誤差逆伝播はデータに基づいてモデルを最適化するものの、そのモデルの外にある未知の現象や変数を完全に把握することは不可能です。
知らないことへの対応
タレブは、未知の要素を重視する姿勢が現代社会に欠けていると強調します。人間は知らないことが多く、既知の知識だけで未来を予測することには限界があります。未知のリスクに備えるためには、既存の枠組みにとらわれない視点が必要です。AIや機械学習がどれほど発達しても、未知の領域を完全に克服することは不可能であり、それを前提とした社会構築が求められています。
結論
本章は、予測の限界を認識し、未知の重要性を理解することの必要性を訴えています。偶然性や未知に基づくアプローチが、イノベーションを生む土壌として重要であり、これを考慮した社会構築が求められています。特に、宇宙からの放射線の発見やコンピュータ技術の発展、そして誤差逆伝播法の役割は、未知への探求がどれほど価値を持つかを象徴しています。しかし同時に、これら技術が持つ限界を認識することで、より柔軟で現実的な未来への対応が可能になるといえます。