第538回「やっぱり観音さま」2022/6/28【毎日の管長日記と呼吸瞑想】| 臨済宗円覚寺派管長 横田南嶺老師
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- Опубликовано: 28 дек 2024
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■管長日記「やっぱり観音さま」
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最後に一日のはじまりを整える、呼吸瞑想がございます。
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六月の二十日から二十六日までは修行道場の大摂心という坐禅に集中する期間でありました。
普段は朝と晩だけの坐禅ですが、午前中も午後も坐禅に励む時なのです。
毎朝修行僧達に講義もし、日中も禅問答を行っています。
そんな一週間は、私も修行道場のことに専念するのですが、今回は東邦大学の研修会が連日入っていました。
四日間昼間に法話をすることになっていました。
四日とも異なる学生さんが聞くというので、同じ話をしていていいのですが、この同じ話をするというのが、難しいものです。
どうしてもやる気が鈍くなってしまうものです。
そこで毎回異なる話をしていました。
禅の初祖である達磨大師の話や、坐禅の話をしていました。
途中で観音さまの話をしましたところ、学生さんたちが最も熱心に聞いてくれて、そして終わったあとに拍手をしてくださいました。
やはり観音さまの話が良いのだと思ったのでした。
今のお若い方々にも観音さまの話が通じるのだと実感しました。
はじめに浅草の観音さまの話から始めました。
浅草の観音さまには、かつて一年に三千万人の方がお参りになると言われていました。
コロナ禍の間は大きく減少していたと思われますが、たいへん多くの方が参詣されるのであります。
今の時期になってかなりの参拝者が戻っていると思われます。
浅草寺は観音さまをお祀りしているお寺であります。
それだけ多くの方がお参りになっていますが、誰も浅草の観音さまご本尊の姿を拝んだ人はいないのであります。
世に秘仏というのはたくさんございますが、それぞれ何年かに一度ご開帳されるものがほとんどであります。
京都の清水寺の観音さまは三十三年に一度のご開帳であります。
ただいまご開帳されいてる信濃の善光寺などは七年に一度のご開帳であります。
浅草の観音さまはご開帳がないのであります。
浅草寺は千四百年もの歴史があります。
まだ飛鳥時代、推古天皇三十六年(西暦六二八)に今の隅田川のほとりで漁をしていた兄弟が、投網の中に一躰の像を発見したのでした。
これが仏像であって、観音さまだったのでした。
よく一寸八分と言われていますが、それだと5センチほどになりますが、それは俗説だというのであります。
もっとも誰も見ていないというので、確かなことはわかりません。
明治になって一度役人が本尊の実在していることを確かめたと言われています。
「観音さまは、女性だと思いますか、男性だと思いますか」と聞いてみました。
多くの方は、女性だろうと思われます。
たしかに日本では、「悲母観音」「慈母観音」など、赤ん坊を抱いているお母さんのようなお姿をした観音さまもいらっしゃいます。
しかし、別段、観音さまは、性別が男性であるとか女性であるとか、どこの生まれであるとか、いつ生まれたとかということはありません。
実在の人物ではないからです。
仏教にはたくさんの仏さま、菩薩さまが説かれていますが、歴史上実在したのはお釈迦さまお一人です。
それ以外の仏さまや菩薩さまは、釈迦さまのお悟りの内容と修行の様子を表したものであります。
菩薩さまは、もともとは仏を目指して努力している方を言います。
それから、後に仏になったあと、仏の位にとどまらずに、あえて菩薩になって人々を救ってゆこうという願いを表したものとなっています。
観音さまやお地蔵さまも、そのような菩薩さまです。
多くの仏さまや菩薩さまは、仏さまの悟りの内容を表したものです。
ですから多くの仏像は、仏さまの心を姿で表したものと言えます。
では、いったい仏さまって何でしょうか。
日本ではよく死人のことを「ほとけ」という場合があります。
もともと仏さまというのは何でしょうか。
決して単に死人や仏像のことではないのです。
『広辞苑』で「ほとけ(仏)」を調べてみますと、まず第一に「悟りを得た者。仏陀」という説明があります。
その次には「釈迦牟尼仏」という説明があります。お釈迦さまのことだというのです。
その次には「仏像。また、仏の名号」とあり、それから「仏法」という説明があって、そのあとに「死者またはその霊」と解説されています。
大事なのは最初にある「悟りを得た者、仏陀」という説明です。
では、何を悟るのでしょうか。
松原泰道先生は、「仏とは、真実の人間性である」と説かれました。
また分かりやすく「自分の中に分け入って真実の人間性を開発するのが仏教だ」とも説いて下さいました。
本当の人間性、人間らしさを開発するというのです。
江戸期の高僧である慈雲尊者は、仏道のことを「人となる道」表現されました。
人となるのが仏の道なのです。
人となると言われますと「成人」という言葉を思い浮かべます。
「成人」とはまさしく「人に成る」のです。
成人がこのたび二十歳から、十八歳になりました。
いったい、何をもって成人というのでしょうか。
「成人」を『広辞苑』で調べても、「幼い者が成長すること。また、その人」。「成年に達すること。また、その人。おとな。現在、日本では男女とも満20歳以上をいう」と説明されているだけです。
その内容についてはわかりません。
そんなことを考えていると、ある方がこういうことを言われていました。
成人とは「人の苦しみが分かる人」だというのです。
誰しも自分の苦しみは分かります。
人の苦しみが分かってこそ成人だと言えます。
人の苦しみが分かれば、人を傷つけるようなことはできなくなるのです。
そして人の苦しみを我が苦しみとして感じるのが仏さまであり、菩薩さまであります。
そんな心を慈悲と申します。
人々に楽を与え、苦を抜いてあげる心であります。
その心を仏心とも申します。
仏心、仏さまの心はこの慈悲の心なのです。
そんな慈悲の心を表したのが観音さまなのであります。
観音さまというのは、音を観ると書きますので、人の苦しみの声を聞く心なのです。
身近なところでは、母親の心は観音さまに最も近いものです。
たとえば、赤ん坊が泣いていると、その泣き声だけ聞けば、何を望んでいるのか分かります。
お腹が減ったのか、眠たいのか母親にはすぐに分かります。
その時の母親の心は、慈悲の心であり、観音さまそのものなのです。
どんな悩み事の相談であっても、その人の身になって聞いてあげることができたならば、その人の心は観音さまなのです。
相手が辛い思いをしていたら、その苦しみを我が苦しみとして受け止めて話を聞いてあげるのです。
そしてその人の苦しみを取り除いて安らぎを与えてあげようと思うのです。
人の心に落ち着きと安らぎを与えるのが観音さまなのです。
東邦大学の研修に来てくれていた学生さんたちの多くは看護師になられるのです。
どうか観音さまのような看護師になって欲しいと願って話をしたのでした。
やっぱり観音さまは有り難い、蒸し熱い中をじっと私のつまらぬ話を聞いてくださった学生さん達は観音さまだと思ったのでした。
横田南嶺
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