Размер видео: 1280 X 720853 X 480640 X 360
Показать панель управления
Автовоспроизведение
Автоповтор
00:00 『五芒星騎士団 リナベール・トール』02:11 五芒星騎士団:ルーク03:53 尽く粉砕する大鎚05:12 騎士団の誇り07:19 皇帝陛下に捧ぐ命08:31 2周目〜
「…あら?ここにも陛下の命を狙う者が居たとは…まあいいでしょう。この五芒星騎士団団長リナベール・トールがお相手しましょう。」
「陛下の命令は絶対……だから、アンタ達を粛清するわ、さぁ、何処からでもかかって来なさい?…この武器の錆にしてあげるわ」(かっこいいですね……BLEACHの星十字騎士団(シュテルンリッター)をオマージュしてるのかな……?違ったらすみません)
トール「見つけたわ!この悪魔!この五芒星騎士団の一人!リナベール・トールが!お前を殺してやるわ!」「へへ……そうカッカッしなさんなって……トール…お茶でもどうだい?」「問答無用!」「おっと…へへ…天使達は何でそんなに俺達のことを攻撃するんだ?」「悪魔だからよ!」「それで?俺達は俺達の本能に従っるに過ぎないのにか?」「悪魔は殺すって決めてるので!」「ひっでぇ決まり!」「そこまでだ!」「ルークさん!」「おいおい……2対1はきついぞ…」「トール合わせろ」「はい!ルークさん!」「「粉砕!玉砕!大喝采!」」「なんか聞いたことある技名!」「ちっ…避けられたか…」「皇帝陛下に捧げたこの命尽きるまで」「「お前を殺してやる!」」「え〜……皇帝の浮気を国民にバラしただけなのに……」
五芒星騎士団 リナベール・トールは五芒星騎士団 ルークを引き連れ皇帝陛下の命令の元、戦いの幕が今下りる
〜【苦しみは人それぞれ】「なるほどな。“雲行きが怪しくなる”ってやつか」 いま起こっている天候の推移を、その比喩表現が示すところの意味ともども主人公は噛み締めた。 にわかに空を覆った高層雲は辺りを陰に沈め、暗澹たる灰色のベールをもって世界から色彩を奪っていく。 濃厚な雲が、これから始まる戦いの苛烈さと辛苦のほどを予告しているかのようだ。「先に云っとくけど」 ──上空から声が掛かる。 そちらに目をてんじれば、この鬱屈とした仄暗さのなか唯一色彩を保った存在がいた。 声の主は、その不自然なまでに鮮明で妖しげに光るショッキングピンクの幻翼をはためかせた。 その様子は頭上の光輪と合わせて、自らを崇高なる神の御使いであると説いているようでさえある。 清廉な白の軍服を着込み、同じく白地の大きな軍帽を被った厳粛な装いとは裏腹に、どこかあどけない端麗な容姿がなんともチグハグな印象の少女。 ──五芒星騎士団・位階5。 戦車、あるいは城壁を意味する“ルーク”を官位に戴いた、『契約都市・ミトラス』における攻防一体の生きた要衝、リナベール・トールだ。「あんたじゃあたしには勝てない。絶対にね」 リナベールは不躾に言い切った。 宣告でも競争心でもなく、単なる事実だと言いたげな口調だ。「……やはり来たか」「ええ。そりゃあ来るわよ。それで、あたしがここに来た理由についての説明はいる?」「いや、済まんな。てんで心当たりがない」「やはりなんて言ったくせに白を切る気……? というより、こっちの正当性自体を否定してるみたいね」 飄々と言葉を紡ぐ主人公に対して、リナベールは苛立ちを覚えた。 自らの到来を予見していながら逃げず、待ちかまえていた様子の主人公が不愉快だったらしい。「いまのミトラスは新たな黎明を迎える重大なセレモニーの直前。いわば正念場よ。ただでさえ部外者を立ち入らせるのは御法度なの」 彼女はその大翼同様、神秘的な極彩色を宿した双眸に侮蔑を込めて主人公を射すくめている。 愛嬌のある大きな丸い眼元では到底隠しきれない敵意が、そこに滲んでいた。「それなのに、あんたは──あんたって奴は! 過客のくせにセレモニーへの参加を認められておきながらそれを蹴るに飽き足らず、この都市の成り立ちに物申し、新生を阻害するために官邸へ押し入って『契約の箱』を持ち出した! この無頼なテロリストめ、恥を知れ!」「『契約の箱』、ね。あんなもんがあるから選民思想は肥大するんだ。 防壁の外の有り様についてどこまで知ってる。泥水を啜ってやっとこさ命を繋ぐ村人のその日暮らしな生活はどうだ? 村の外れに居着く暗森の悪鬼がテリトリーを拡げて、じわじわと生活圏が蝕まれていく恐怖は理解できてるか? こんな小綺麗な都市にこもり切りの温室育ちには想像つかんわな」 「……なに? そんなことで『契約の箱』を持ち出したわけ?」 主人公の弁舌を、しかしリナベールは嘲笑で返した。 「ふん、当然の報いだわ。ぜんぶ彼らの祖先が選んだことよ。子々孫々、我らが神の庇護より離れた愚かさを噛み締めるのが相応しい。 それをここへ来て不当だなんて、どの口が言うんだか。改めて、相容れない人種だわ」 当然の報いと言いながら、リナベールの声色には明らかな侮蔑が含まれていた。 郊外の村人たちを知識として知りながら、冷酷さゆえに同調も共感もはさむ値打ちはないと言外に述べたのだ。「なるほどねぇ……」 まるで実験動物を観察するようにいやらしく目を細め、嘲りの笑みを浮かべながらリナベールは主人公を睨め付けた。「つまり可哀想な下民どもを慮る自分に酔いたくてこんな大それたことをしてくれちゃったわけか、あんたは」 リナベールは腰に両手を当て、前屈みになりながら目下の主人公を睥睨する。 互いの妥協点を見出せないと悟り、主人公は小さくため息をこぼした。「……もういい」「は? なに?」 腰に手を伸ばし、片刃剣を掴む。 臨戦体制に移った主人公に、リナベールも剣呑な面持ちで凄んだ。「一時は分かり合えると思ったりもしたが、こりゃ無理そうだな」「さあね。そんな可能性があったとしたら、それを反故にしたのは間違いなくあんた自身よ、テロリストさん」 リナベールも自身の得物を構える。 五芒星騎士団切っての実力者が手にしているのは巨大な鉄槌だった。 一目で逸品とわかる凝った装飾のそれを、リナベールは片手で軽々と振り上げてみせる。「あたし、最強だから。死にたくなかったらさっさと命乞いするか、新たな力にでも目醒めること……ねッ!」 リナベールが中空を蹴り、主人公目掛けて疾風の如く突撃する。 ──いま、戦いの火蓋が切られた。──────
「……で? コイツがそのゴボウ整備士団ってヤツかよ」「まあ良いよそれで」 郊外の薄暗い樹林にある、木々が避けて拓けた一画。 そこに、老若男女とわず郊外の村民が押し寄せていた。 輪を描くように寄り固まった人混みの真ん中で、俺とヒロイン、憤怒の悪魔ヴォルカノスキーの三人がこれまた円陣を組むように腰掛けている。その中心には ──荒縄で上体と両の脚首を雁字搦めにされたリナベールの姿があった。「ず…ずびばぜんでぢだ……」 顔中アザとたん瘤だらけのリナベールが、腫れぼったい口内から搾り出すように声を漏らした。 あれからリナベールとの戦闘に入った俺は、まず初撃を回避して、重量のある鉄槌を扱う彼女にとり苦手であろう懐へと潜り込んだ。 リナベールは鉄槌の打撃部のサイズを自在に変化させ重心を移し変えることでこれに対応してきた。 ハンマーの頭を縮小することで小回りを効かせ至近からの攻撃を凌ぎ、距離をとってお次は拡大、痛烈な一撃を見舞ってくる。 中〜近距離まで隙がない、なかなかに練達の技前だった。 しかし遠距離への対応が疎かで、引いた位置からの確率操作による必中のグミ撃ちを捌けず敢えなく撃沈していった。「ぐっ…ばがな。ごの、最ぎょゔのあだぢが…ごんな冴えない、オダンゴナヅ童、貞に…」 本当は放置しとくつもりだったが、なんかムカつくので取り敢えずふん縛って郊外まで引き摺ってきたというところである。 彼女を見て、群衆のあいだからはさまざまな声が漏れている。 そのほとんどが、彼女へ宛てた非難のようだ。「まァ、当たり前だわな」 周囲の様子を察したヴォルカノスキーが、やれやれと言った様子でつぶやいた。 そう、当たり前なのだ。 何しろ彼女は、村人たちからしたら自身を虐げてきた既得権益層の、なかでも上澄であり、目の敵なわけだから。 彼らの憤りも尤もといえる。 それを踏まえた処断を下すべきだろう。 そんなことを考えながら、俺たち三人は、誂え向けな石にそれぞれ腰を下ろし、その真ん中でボロ雑巾と化したリナベールを見下ろしている。「この子、連れて来ちゃってよかったの…?」「少なくとも不都合ありそうな連中のなかに俺たちが気を配るべき相手はいないだろ」 困惑を浮かべて訊ねるヒロインに、俺は肩を竦めて応えた。「どうすんだよコイツ」「こいつさっき結構調子こいたこと言ってたから、その落とし前でも付けてもらおうかと」「オマエも大概えげつねェな、カッカッカ!」「ぢょ…ぢょうじにのっで…ごべんなざいでぢだ…」「もう…。あんまり変なことしちゃ駄目よ?」 ──分かったよママァ! オンギャァァァァァァァァァ──!!!!! …などとキモいこと考えてる俺含む三人が何か発言するたびに涙眼でビクビクと身を震わせるリナベールの姿からは、先ほどまでの威風堂々とした豪胆さを欠片も感じない。 捕食者を前にした無力なネズミ同然の体で自身の行く末を思い、恐怖に震えているのだろう。その有り様には、一周回って憐憫すら覚える。「カッカッカ! …怖いか? 怖いだろッ!オマエには生死の境を横走りで行ったり来たりさせてやンよ!」「びぇぇええ!!」「反復横跳びか」
「──具体的な内容が思いついてないならよ」 不意に、群衆のなかから皺枯れた声が響いた。振り返ると、村長が杖をつきながら今にもポッキリいってしまいそうな細い脚で立っている。「木寸長のオヤッサンじゃねェか」「キスンチョ言うな。……じゃなくて俺から提案がある」 がやがやと喧騒を奏でていた村民たちも立ち所に鎮まり、全ての視線を彼に注いだ。耳を澄まして村長の言葉の続きを待っている。 色々な思惑を持ちながらも、判決は最終的に村長の意向へ集束されると理解しているからだ。 村長はゆっくりとリナベールの前まで歩み寄った。腰をかがめて彼女の双眸をまっすぐに覗き込む。 自身の処遇を決定する権利を持った相手を前に、リナベールは顔面蒼白でガタガタ震えている。まさに“まな板の上の鯉”といった具合だ。「お前たちがしてきたことは、決して赦されることではない。悪には罰が必要だ」「ば、ばぃ…」「むかし、この村に立ち寄ったお偉いさんが威張り散らして言っておったよ。お前たち既得権益層の連中にとって、俺たち郊外の村民連中は地を這い回る虫ケラ同然らしいじゃないか」「ばぃ…」「そこは嘘でも否定しようよ…」 ヒロインが思わず溢した。「そんな既得権益層の、なかでも位が高いお前にとって一番の苦しみとなる処遇といったら、まあひとつだわな」「ごべんなざいでぢだぁぁぁ!!」「ええい黙れ!」「ぶっ!!」 傍に控えていた村長の息子が、リナベールの頭を地面に押さえつけた。 それを見て村長が片手を上げると、彼の息子は渋々とその手をリナベールの頭部から離す。「顔を上げなさいリナベール・トール」「──」 ほとんど前屈みにうずくまったまま、リナベールが首だけを上げて恐々と村長を見上げる。 村長は、静かな面持ちでそんな彼女を見ていた。「お前への処遇は──」 群衆が固唾を飲む音が聴こえた。 俺たちも思わず、呼吸すら忘れて村長の言葉に耳を傾ける。 リナベールも口をあわあわと歪め、顔面蒼白を通り越してほとんど土色の死相染みた面持ちを浮かべ、次の言葉に意識を集中している。 一呼吸おいてから、村長がおもむろに口を開いた。「一ヶ月、村民生活体験ツアーだ」「────」
沈黙が、その場を支配した。 風が吹き、木々の葉擦れだけが音を立てる。 なんだ…? いまなんて言った…? そんな声がどこかから漏れ、それを皮切りとして喧騒が徐々に帰ってきた。 それは初めの憤懣やる方ない気配とは違う、戸惑いと疑念から生まれたどよめきだ。 民衆のなかに、もちろん俺たちも含め先の村長の言が示す意味を理解できている者は一人としていなかった。 『拷問』、『死刑』などなど。自らの溜飲を下げるにふさわしい線から結論を予想立てしていた村民たちにとって、それら候補のどれとも違う採択の言葉を上手く聞き取ることができなかったのだ。 リナベールも理解が及ばず、口をパクパクさせている始末だ。「聞け、皆のものよ」 村長が声を張り上げる。 辺りはいま一度静まり返り、目の前で為された判決の意味を知ろうと傾聴し押し黙った。「エリート思想が強い既得権益層の連中にとって、地を這い回る虫ケラ同然の生活はこれ以上ない苦痛だ。それこそ、死さえも及ばぬ苦しみとなろう。だから一ヶ月だ。この期間中、リナベール・トールにはその虫ケラ同然の生活という屈辱を受け、辛酸を嘗めてもらう。これが俺の採択だ。異議のある者は、遠慮せず名乗り出てくれ」 辺りは静まり返ったままだ。 説明された意味を理解するのに時間を要して押し黙ったままの村民たちを、村長は見回している。 すぐ傍に佇む彼の息子でさえ、何か信じられないものを見るような目で、村長を見遣っている。「ふ…ふざけるな…」 民衆の中からそんな声が漏れるまで、結構な時間を要した。「ふざけるな…! なんだその馬鹿な採決は!そんなんで納得いくか!」「んだんだ!」「俺たちが一体どれだけの苦痛をこいつらから味わされてきたか、あんたが一番分かってるはずだろ!」「思い知らせるべきだ!」「そんな事実上の無罪放免で、ご先祖にも示しがつかんぞ!」 村民たちが怒りの形相で村長に押し迫り、唾を飛ばしながら代わる代わる捲し立てる。 村長は目を伏せ、黙して聴きに徹している。「どうした木寸長、ヴォケたか?」 ヴォルカノスキーが肘で俺を小突き、解説を求める。「キスンチョ言ってやるなよ、ツッコミできる状態にねぇだろ。…俺にも分からんよ」 この村のコミュニティにとって部外者にすぎない俺からしても、正直納得しかねる流れだ。 『契約都市・ミトラス』の歴史は、外部への搾取と圧政の歴史と言えた。『契約の箱』事件から脈々と尾をひく郊外との軋轢はいまだ根深く、ミトラス側が押し付ける自己都合的な上下関係は多くの悲しむべき出来事を引き起こした。 村長もまた、この因縁によって両親を殺された身。既得権益層への恨みもひと塩のはずだ。 そんな彼が何を思ってこんな採択を……? 俺たちまでもが村民の戸惑いと憤りに当てられたて何が何やら分からなくなっているなか、なおも村長は聴き役を貫いていた。 言いたいことを大方吐き出した村人の訴えは疲弊から次第に止んでいく。 息を切らして佇む村民たちと、沈黙を貫く村長とで、不思議なこう着状態が生まれていた。「お前たちの言い分も尤もじゃ。俺には村長としてお前たちが納得できるだけの理由を提示する責任があるだろう。どれ……」 村長は重く閉じていた口を開いた。 静まり返ったなか、その声はやけに響いて村民たちの鼓膜を揺らす。 村長は振り返って、先ほどから口をあんぐりと開けたまま硬直しているリナベールと再び向き合った。「リナベール・トールよ」「──ばぃ」「やっぱり死刑じゃ」
あまりにも急な手のひら返し──。 それはそれで話が読めず、村民たちの頭が真っ白になる。 唐突に死刑を突きつけられたリナベールはというと──「よしッ──!」 なんか喜んでいた。先ほどまでの悲壮な表情はどこへやら喜色満面といった具合だ。 両者のあいだで交わされるやり取りの“始”と“終”のつながり方があまりに不可解で、俺たちは“なんも言えねぇ”状態だ。「やっぱり体験ツアーじゃ」「ぎゃぁぁぁぁ!!」 またしても唐突に覆る採決。ある村民がいうところの“事実上の無罪放免”を受けてどういう訳かリナベールが悲鳴を上げる。「やっぱり死刑じゃ」「よしッ──!」「やっぱり体験ツアーじゃ」「ぎゃぁぁぁぁ!!」「やっぱり死刑じゃ」「よしッ──!」「やっぱり体験ツアーじゃ」「ぎゃぁぁぁぁ!!」 そんなやり取りが何度か続き、俺たちや群衆は村長が言わんとしている意味を理解しはじめた。いや。頭では理解できたが、そんなことがあり得るのか…? 「やっぱり死刑じゃ」「よしッ──!」「やっぱり体験ツアーじゃ」「ぎゃぁぁぁぁ!!」「お前ムカつくのぅ! どんだけ俺らの生活が嫌なんだ!」 ついに、村長が檄を飛ばした。 そういうことらしい。 ミトラスの既得権益層が持っているある種超常的な精神構造を目の当たりにして、村民たちは恐怖に顔を歪めた。「ふ…ふざけるな…」 そんな声が民衆の間から漏れるまでに、随分な時間を要した。「ふざけるな…! 俺ら郊外の人間をとことんコケにしやがって!」「んだんだ!」「お前たちが俺らに押し付けた生活様式でもあるんだぞ!」「それをまるで不潔な何かみたいに…!」「思い知らせるべきだ!」「ツアーだ……体験ツアーだ!」「体験ツアーの刑に処せ!」 辺りは空前の“ツアー”コールで満たされ、リナベールが絶叫するという異様な空気のなか、即席の裁判はなし崩し的に閉廷した。「なん…なの、これ」 ヒロインが、俺とヴォルカノスキーの内心をひっそり代弁した。
【その後】 即席で行われたリナベールの処遇にまつわる裁判的な何かが一応の帰結を迎えたことで、村民はひとり、またひとりと家路についた。 そんななか、俺とヒロイン、ヴォルカノスキーと村長親子及びリナベールの面々だけがその場にとどまっていた。「何だかお祭りの後みたいで、ちょっぴり寂しいね…」「そ、そうかな? そうかも…? いやその通りだ!」 締めやかにそんなことを言い、何やらアンニュイな面持ちのヒロインだが、明らかにお祭りとは程遠い雰囲気だったため、そのような感慨を抱かなかった俺。 ヒロインがそういうならと自らに暗示をかけ寂寞と哀愁に駆られようと苦心していたところ、村長とその息子の会話が聞こえて来た。「父さん、俺はやはり納得がいかない」「──」「あいつは既得権益層の、なかでも五芒星騎士団なんだぞ。それっていったら、言ってみれば搾取担当……俺らを虐げた連中の最たる奴らじゃないか」「そうじゃな、だがあいつは死に対して無敵の精神構造しとるぞ。死刑じゃ、罰が罰にならん。困惑しとるのは何もお前に限った話じゃない」 息子からの責め立てるような視線を、村長は素直に受け止めている。 リナベールにとって何が罰になるかという問題がまともな答えに行きつかないことは理解できたが、結局のところ、それでは自分たちが救われないのだ。 自分たちが恐れる苦痛、すなわち死を以て罰を受けるのでなければ、どうしても罪が清算された実感が湧かないのだ。 自分たちの理解が及ばない法則で勝手に苦しまれても、そんなものはリナベール・トールが“そう感じている”というだけに過ぎない。 しかるべき断罪が通用せず、相手のルールに合わせて罰が下されたということになっているに過ぎないのだ。「こんな掌の上みたいな状況に持ち込んだのに俺たちはつくづく、あいつらに歯が立たないんだなって…」「返す言葉もない」 村長は息子の言を聞き届けた。本当のところ、村長自身もまた同じ考えに行き着いていたからだ。 刑罰とは、相手に清算を要求するためだけのものではない。それを通して、関係者各位が納得し、過去と決別できるかたちでなければならない。 そういう意味で、この度の処断はどこまで行っても片手落ちなのだ。 加えてその内容が自分たちと同じ生活を送るという、それ自体が納得しかねるものである。 リナベールへの罰であると同時に、彼女から郊外へなされる軽蔑意識の表明でもあると言える。 苦しみの大きさだけ、こちらまで否定されるのだ。それは果たして、本当に正しく勧善懲悪が機能していると言えるのか。 この場を去った村人たちも、奥底では同じようなことを考えているのではなかろうか。 ただ、それ以外の落とし所が見つからないというだけで、形ばかり自分を納得させる以外なかったのではなかろうか。「しかしな、息子よ」 村長が息子の揺れる眼を見つめた。「単なる暴力に訴え、相手を押し除けるやり方に固執する必要はない。結局、その道はミトラスに通じておる」 息子は何かに気づいたような眼で村長の,眼を見つめ返した。「奴らと同じであってはならん。俺たちには俺たちのやり方が、生き方がある。それを貫こう。先人が残した偉大な言葉を思い出すんだ」「『善をもって悪に打ち勝て』…」「うむ、俺たちは今までそうしてきた。耐え忍んできた。であればこそ、その生き方が正しかったと信じたい。あいつらが過去に囚われているなら、俺たちは未来を見よう。目線を上げて先を見据え続けよう。それが、俺らにできるあいつらへの最大の反撃なんだよ」「うん……」「それに、思えばあのリナベール・トールという娘も哀れなもんよ」 そういうと、村長は目線をリナベールに向けた。 そこには縄で縛られて涙を浮かべながら、ゲラゲラ笑うヴォルカノスキーが指先に灯した火を喉元に突きつけられて「ギブギブ」と声を漏らしているリナベールの姿があった。「ミトラスの洗脳教育とは恐ろしいもんだ。人が、生物が生き残るうえで死への恐怖は欠かせない。それを他人の都合で封じ込められ、死をも恐れず、故に人の痛みもわからず非道に手を染めることにも躊躇がない」「半分以上、あの二人のうちどっちについて言ってるのか分かりません」「──」 憤怒の悪魔によって殊勝な雰囲気を乱され、村長はバツが悪そうに咳払いした。「それに、俺はな。こうも考えるんだ」 それまでの話を切り替えるように空を見上げて、これまでの世の流れを想いながら村長が言葉を続ける。「時代は変遷する。ならば、俺らもそうあるのが自然な在り方なのではないかと。郊外に限った話ではなく、ミトラスについてもだ」「何を──」「郊外とミトラスの軋轢を今なお続行させる最大の要因は、互いの“不理解”だと、俺は思う」「それを取り除いて、関係が修復されるのを望む、と?」「途方もない苦難の連続だろう。しかし、踏み出さなければ始まらない。──息子よ。お前が生まれたときに、喜びながらもどこかで思ったもんだよ。こんな碌でもない世界に生み落として良かったのか、とな」「──」「そんな思いを、これから先も俺らの子孫がし続けるなんてな。そりゃあ気落ちする。俺はこの因果を何処かで断ち切るべきだと思う」「何故そんな話をいまここで……」「その架け橋に、あのリナベールという娘がなってくれたらと思っとる」
00:00 『五芒星騎士団 リナベール・トール』
02:11 五芒星騎士団:ルーク
03:53 尽く粉砕する大鎚
05:12 騎士団の誇り
07:19 皇帝陛下に捧ぐ命
08:31 2周目〜
「…あら?ここにも陛下の命を狙う者が居たとは…まあいいでしょう。この五芒星騎士団団長リナベール・トールがお相手しましょう。」
「陛下の命令は絶対……だから、アンタ達を粛清するわ、さぁ、何処からでもかかって来なさい?…この武器の錆にしてあげるわ」
(かっこいいですね……BLEACHの星十字騎士団(シュテルンリッター)をオマージュしてるのかな……?違ったらすみません)
トール「見つけたわ!この悪魔!この五芒星騎士団の一人!リナベール・トールが!お前を殺してやるわ!」
「へへ……そうカッカッしなさんなって……トール…お茶でもどうだい?」
「問答無用!」
「おっと…へへ…天使達は何でそんなに俺達のことを攻撃するんだ?」
「悪魔だからよ!」
「それで?俺達は俺達の本能に従っるに過ぎないのにか?」
「悪魔は殺すって決めてるので!」
「ひっでぇ決まり!」
「そこまでだ!」
「ルークさん!」
「おいおい……2対1はきついぞ…」
「トール合わせろ」
「はい!ルークさん!」
「「粉砕!玉砕!大喝采!」」
「なんか聞いたことある技名!」
「ちっ…避けられたか…」
「皇帝陛下に捧げたこの命尽きるまで」
「「お前を殺してやる!」」
「え〜……皇帝の浮気を国民にバラしただけなのに……」
五芒星騎士団 リナベール・トールは五芒星騎士団 ルークを引き連れ皇帝陛下の命令の元、戦いの幕が今下りる
〜【苦しみは人それぞれ】
「なるほどな。“雲行きが怪しくなる”ってやつか」
いま起こっている天候の推移を、その比喩表現が示すところの意味ともども主人公は噛み締めた。
にわかに空を覆った高層雲は辺りを陰に沈め、暗澹たる灰色のベールをもって世界から色彩を奪っていく。
濃厚な雲が、これから始まる戦いの苛烈さと辛苦のほどを予告しているかのようだ。
「先に云っとくけど」
──上空から声が掛かる。
そちらに目をてんじれば、この鬱屈とした仄暗さのなか唯一色彩を保った存在がいた。
声の主は、その不自然なまでに鮮明で妖しげに光るショッキングピンクの幻翼をはためかせた。
その様子は頭上の光輪と合わせて、自らを崇高なる神の御使いであると説いているようでさえある。
清廉な白の軍服を着込み、同じく白地の大きな軍帽を被った厳粛な装いとは裏腹に、どこかあどけない端麗な容姿がなんともチグハグな印象の少女。
──五芒星騎士団・位階5。
戦車、あるいは城壁を意味する“ルーク”を官位に戴いた、『契約都市・ミトラス』における攻防一体の生きた要衝、リナベール・トールだ。
「あんたじゃあたしには勝てない。絶対にね」
リナベールは不躾に言い切った。
宣告でも競争心でもなく、単なる事実だと言いたげな口調だ。
「……やはり来たか」
「ええ。そりゃあ来るわよ。それで、あたしがここに来た理由についての説明はいる?」
「いや、済まんな。てんで心当たりがない」
「やはりなんて言ったくせに白を切る気……? というより、こっちの正当性自体を否定してるみたいね」
飄々と言葉を紡ぐ主人公に対して、リナベールは苛立ちを覚えた。
自らの到来を予見していながら逃げず、待ちかまえていた様子の主人公が不愉快だったらしい。
「いまのミトラスは新たな黎明を迎える重大なセレモニーの直前。いわば正念場よ。ただでさえ部外者を立ち入らせるのは御法度なの」
彼女はその大翼同様、神秘的な極彩色を宿した双眸に侮蔑を込めて主人公を射すくめている。
愛嬌のある大きな丸い眼元では到底隠しきれない敵意が、そこに滲んでいた。
「それなのに、あんたは──あんたって奴は!
過客のくせにセレモニーへの参加を認められておきながらそれを蹴るに飽き足らず、この都市の成り立ちに物申し、新生を阻害するために官邸へ押し入って『契約の箱』を持ち出した!
この無頼なテロリストめ、恥を知れ!」
「『契約の箱』、ね。あんなもんがあるから選民思想は肥大するんだ。
防壁の外の有り様についてどこまで知ってる。泥水を啜ってやっとこさ命を繋ぐ村人のその日暮らしな生活はどうだ?
村の外れに居着く暗森の悪鬼がテリトリーを拡げて、じわじわと生活圏が蝕まれていく恐怖は理解できてるか?
こんな小綺麗な都市にこもり切りの温室育ちには想像つかんわな」
「……なに? そんなことで『契約の箱』を持ち出したわけ?」
主人公の弁舌を、しかしリナベールは嘲笑で返した。
「ふん、当然の報いだわ。ぜんぶ彼らの祖先が選んだことよ。子々孫々、我らが神の庇護より離れた愚かさを噛み締めるのが相応しい。
それをここへ来て不当だなんて、どの口が言うんだか。改めて、相容れない人種だわ」
当然の報いと言いながら、リナベールの声色には明らかな侮蔑が含まれていた。
郊外の村人たちを知識として知りながら、冷酷さゆえに同調も共感もはさむ値打ちはないと言外に述べたのだ。
「なるほどねぇ……」
まるで実験動物を観察するようにいやらしく目を細め、嘲りの笑みを浮かべながらリナベールは主人公を睨め付けた。
「つまり可哀想な下民どもを慮る自分に酔いたくてこんな大それたことをしてくれちゃったわけか、あんたは」
リナベールは腰に両手を当て、前屈みになりながら目下の主人公を睥睨する。
互いの妥協点を見出せないと悟り、主人公は小さくため息をこぼした。
「……もういい」
「は? なに?」
腰に手を伸ばし、片刃剣を掴む。
臨戦体制に移った主人公に、リナベールも剣呑な面持ちで凄んだ。
「一時は分かり合えると思ったりもしたが、こりゃ無理そうだな」
「さあね。そんな可能性があったとしたら、それを反故にしたのは間違いなくあんた自身よ、テロリストさん」
リナベールも自身の得物を構える。
五芒星騎士団切っての実力者が手にしているのは巨大な鉄槌だった。
一目で逸品とわかる凝った装飾のそれを、リナベールは片手で軽々と振り上げてみせる。
「あたし、最強だから。死にたくなかったらさっさと命乞いするか、新たな力にでも目醒めること……ねッ!」
リナベールが中空を蹴り、主人公目掛けて疾風の如く突撃する。
──いま、戦いの火蓋が切られた。
───
──
─
「……で? コイツがそのゴボウ整備士団ってヤツかよ」
「まあ良いよそれで」
郊外の薄暗い樹林にある、木々が避けて拓けた一画。
そこに、老若男女とわず郊外の村民が押し寄せていた。
輪を描くように寄り固まった人混みの真ん中で、俺とヒロイン、憤怒の悪魔ヴォルカノスキーの三人がこれまた円陣を組むように腰掛けている。その中心には
──荒縄で上体と両の脚首を雁字搦めにされたリナベールの姿があった。
「ず…ずびばぜんでぢだ……」
顔中アザとたん瘤だらけのリナベールが、腫れぼったい口内から搾り出すように声を漏らした。
あれからリナベールとの戦闘に入った俺は、まず初撃を回避して、重量のある鉄槌を扱う彼女にとり苦手であろう懐へと潜り込んだ。
リナベールは鉄槌の打撃部のサイズを自在に変化させ重心を移し変えることでこれに対応してきた。
ハンマーの頭を縮小することで小回りを効かせ至近からの攻撃を凌ぎ、距離をとってお次は拡大、痛烈な一撃を見舞ってくる。
中〜近距離まで隙がない、なかなかに練達の技前だった。
しかし遠距離への対応が疎かで、引いた位置からの確率操作による必中のグミ撃ちを捌けず敢えなく撃沈していった。
「ぐっ…ばがな。ごの、最ぎょゔのあだぢが…ごんな冴えない、オダンゴナヅ童、貞に…」
本当は放置しとくつもりだったが、なんかムカつくので取り敢えずふん縛って郊外まで引き摺ってきたというところである。
彼女を見て、群衆のあいだからはさまざまな声が漏れている。
そのほとんどが、彼女へ宛てた非難のようだ。
「まァ、当たり前だわな」
周囲の様子を察したヴォルカノスキーが、やれやれと言った様子でつぶやいた。
そう、当たり前なのだ。
何しろ彼女は、村人たちからしたら自身を虐げてきた既得権益層の、なかでも上澄であり、目の敵なわけだから。
彼らの憤りも尤もといえる。
それを踏まえた処断を下すべきだろう。
そんなことを考えながら、俺たち三人は、誂え向けな石にそれぞれ腰を下ろし、その真ん中でボロ雑巾と化したリナベールを見下ろしている。
「この子、連れて来ちゃってよかったの…?」
「少なくとも不都合ありそうな連中のなかに俺たちが気を配るべき相手はいないだろ」
困惑を浮かべて訊ねるヒロインに、俺は肩を竦めて応えた。
「どうすんだよコイツ」
「こいつさっき結構調子こいたこと言ってたから、その落とし前でも付けてもらおうかと」
「オマエも大概えげつねェな、カッカッカ!」
「ぢょ…ぢょうじにのっで…ごべんなざいでぢだ…」
「もう…。あんまり変なことしちゃ駄目よ?」
──分かったよママァ!
オンギャァァァァァァァァァ──!!!!!
…などとキモいこと考えてる俺含む三人が何か発言するたびに涙眼でビクビクと身を震わせるリナベールの姿からは、先ほどまでの威風堂々とした豪胆さを欠片も感じない。
捕食者を前にした無力なネズミ同然の体で自身の行く末を思い、恐怖に震えているのだろう。その有り様には、一周回って憐憫すら覚える。
「カッカッカ! …怖いか? 怖いだろッ!
オマエには生死の境を横走りで行ったり来たりさせてやンよ!」
「びぇぇええ!!」
「反復横跳びか」
「──具体的な内容が思いついてないならよ」
不意に、群衆のなかから皺枯れた声が響いた。振り返ると、村長が杖をつきながら今にもポッキリいってしまいそうな細い脚で立っている。
「木寸長のオヤッサンじゃねェか」
「キスンチョ言うな。……じゃなくて俺から提案がある」
がやがやと喧騒を奏でていた村民たちも立ち所に鎮まり、全ての視線を彼に注いだ。耳を澄まして村長の言葉の続きを待っている。
色々な思惑を持ちながらも、判決は最終的に村長の意向へ集束されると理解しているからだ。
村長はゆっくりとリナベールの前まで歩み寄った。腰をかがめて彼女の双眸をまっすぐに覗き込む。
自身の処遇を決定する権利を持った相手を前に、リナベールは顔面蒼白でガタガタ震えている。まさに“まな板の上の鯉”といった具合だ。
「お前たちがしてきたことは、決して赦されることではない。悪には罰が必要だ」
「ば、ばぃ…」
「むかし、この村に立ち寄ったお偉いさんが威張り散らして言っておったよ。
お前たち既得権益層の連中にとって、俺たち郊外の村民連中は地を這い回る虫ケラ同然らしいじゃないか」
「ばぃ…」
「そこは嘘でも否定しようよ…」
ヒロインが思わず溢した。
「そんな既得権益層の、なかでも位が高いお前にとって一番の苦しみとなる処遇といったら、まあひとつだわな」
「ごべんなざいでぢだぁぁぁ!!」
「ええい黙れ!」
「ぶっ!!」
傍に控えていた村長の息子が、リナベールの頭を地面に押さえつけた。
それを見て村長が片手を上げると、彼の息子は渋々とその手をリナベールの頭部から離す。
「顔を上げなさいリナベール・トール」
「──」
ほとんど前屈みにうずくまったまま、リナベールが首だけを上げて恐々と村長を見上げる。
村長は、静かな面持ちでそんな彼女を見ていた。
「お前への処遇は──」
群衆が固唾を飲む音が聴こえた。
俺たちも思わず、呼吸すら忘れて村長の言葉に耳を傾ける。
リナベールも口をあわあわと歪め、顔面蒼白を通り越してほとんど土色の死相染みた面持ちを浮かべ、次の言葉に意識を集中している。
一呼吸おいてから、村長がおもむろに口を開いた。
「一ヶ月、村民生活体験ツアーだ」
「────」
沈黙が、その場を支配した。
風が吹き、木々の葉擦れだけが音を立てる。
なんだ…? いまなんて言った…?
そんな声がどこかから漏れ、それを皮切りとして喧騒が徐々に帰ってきた。
それは初めの憤懣やる方ない気配とは違う、戸惑いと疑念から生まれたどよめきだ。
民衆のなかに、もちろん俺たちも含め先の村長の言が示す意味を理解できている者は一人としていなかった。
『拷問』、『死刑』などなど。自らの溜飲を下げるにふさわしい線から結論を予想立てしていた村民たちにとって、それら候補のどれとも違う採択の言葉を上手く聞き取ることができなかったのだ。
リナベールも理解が及ばず、口をパクパクさせている始末だ。
「聞け、皆のものよ」
村長が声を張り上げる。
辺りはいま一度静まり返り、目の前で為された判決の意味を知ろうと傾聴し押し黙った。
「エリート思想が強い既得権益層の連中にとって、地を這い回る虫ケラ同然の生活はこれ以上ない苦痛だ。それこそ、死さえも及ばぬ苦しみとなろう。
だから一ヶ月だ。この期間中、リナベール・トールにはその虫ケラ同然の生活という屈辱を受け、辛酸を嘗めてもらう。これが俺の採択だ。
異議のある者は、遠慮せず名乗り出てくれ」
辺りは静まり返ったままだ。
説明された意味を理解するのに時間を要して押し黙ったままの村民たちを、村長は見回している。
すぐ傍に佇む彼の息子でさえ、何か信じられないものを見るような目で、村長を見遣っている。
「ふ…ふざけるな…」
民衆の中からそんな声が漏れるまで、結構な時間を要した。
「ふざけるな…! なんだその馬鹿な採決は!
そんなんで納得いくか!」
「んだんだ!」
「俺たちが一体どれだけの苦痛をこいつらから味わされてきたか、あんたが一番分かってるはずだろ!」
「思い知らせるべきだ!」
「そんな事実上の無罪放免で、ご先祖にも示しがつかんぞ!」
村民たちが怒りの形相で村長に押し迫り、唾を飛ばしながら代わる代わる捲し立てる。
村長は目を伏せ、黙して聴きに徹している。
「どうした木寸長、ヴォケたか?」
ヴォルカノスキーが肘で俺を小突き、解説を求める。
「キスンチョ言ってやるなよ、ツッコミできる状態にねぇだろ。…俺にも分からんよ」
この村のコミュニティにとって部外者にすぎない俺からしても、正直納得しかねる流れだ。
『契約都市・ミトラス』の歴史は、外部への搾取と圧政の歴史と言えた。『契約の箱』事件から脈々と尾をひく郊外との軋轢はいまだ根深く、ミトラス側が押し付ける自己都合的な上下関係は多くの悲しむべき出来事を引き起こした。
村長もまた、この因縁によって両親を殺された身。既得権益層への恨みもひと塩のはずだ。
そんな彼が何を思ってこんな採択を……?
俺たちまでもが村民の戸惑いと憤りに当てられたて何が何やら分からなくなっているなか、なおも村長は聴き役を貫いていた。
言いたいことを大方吐き出した村人の訴えは疲弊から次第に止んでいく。
息を切らして佇む村民たちと、沈黙を貫く村長とで、不思議なこう着状態が生まれていた。
「お前たちの言い分も尤もじゃ。俺には村長としてお前たちが納得できるだけの理由を提示する責任があるだろう。どれ……」
村長は重く閉じていた口を開いた。
静まり返ったなか、その声はやけに響いて村民たちの鼓膜を揺らす。
村長は振り返って、先ほどから口をあんぐりと開けたまま硬直しているリナベールと再び向き合った。
「リナベール・トールよ」
「──ばぃ」
「やっぱり死刑じゃ」
あまりにも急な手のひら返し──。
それはそれで話が読めず、村民たちの頭が真っ白になる。
唐突に死刑を突きつけられたリナベールはというと──
「よしッ──!」
なんか喜んでいた。先ほどまでの悲壮な表情はどこへやら喜色満面といった具合だ。
両者のあいだで交わされるやり取りの“始”と“終”のつながり方があまりに不可解で、俺たちは“なんも言えねぇ”状態だ。
「やっぱり体験ツアーじゃ」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
またしても唐突に覆る採決。ある村民がいうところの“事実上の無罪放免”を受けてどういう訳かリナベールが悲鳴を上げる。
「やっぱり死刑じゃ」
「よしッ──!」
「やっぱり体験ツアーじゃ」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「やっぱり死刑じゃ」
「よしッ──!」
「やっぱり体験ツアーじゃ」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
そんなやり取りが何度か続き、俺たちや群衆は村長が言わんとしている意味を理解しはじめた。いや。頭では理解できたが、そんなことがあり得るのか…?
「やっぱり死刑じゃ」
「よしッ──!」
「やっぱり体験ツアーじゃ」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「お前ムカつくのぅ! どんだけ俺らの生活が嫌なんだ!」
ついに、村長が檄を飛ばした。
そういうことらしい。
ミトラスの既得権益層が持っているある種超常的な精神構造を目の当たりにして、村民たちは恐怖に顔を歪めた。
「ふ…ふざけるな…」
そんな声が民衆の間から漏れるまでに、随分な時間を要した。
「ふざけるな…! 俺ら郊外の人間をとことんコケにしやがって!」
「んだんだ!」
「お前たちが俺らに押し付けた生活様式でもあるんだぞ!」
「それをまるで不潔な何かみたいに…!」
「思い知らせるべきだ!」
「ツアーだ……体験ツアーだ!」
「体験ツアーの刑に処せ!」
辺りは空前の“ツアー”コールで満たされ、リナベールが絶叫するという異様な空気のなか、即席の裁判はなし崩し的に閉廷した。
「なん…なの、これ」
ヒロインが、俺とヴォルカノスキーの内心をひっそり代弁した。
【その後】
即席で行われたリナベールの処遇にまつわる裁判的な何かが一応の帰結を迎えたことで、村民はひとり、またひとりと家路についた。
そんななか、俺とヒロイン、ヴォルカノスキーと村長親子及びリナベールの面々だけがその場にとどまっていた。
「何だかお祭りの後みたいで、ちょっぴり寂しいね…」
「そ、そうかな? そうかも…? いやその通りだ!」
締めやかにそんなことを言い、何やらアンニュイな面持ちのヒロインだが、明らかにお祭りとは程遠い雰囲気だったため、そのような感慨を抱かなかった俺。
ヒロインがそういうならと自らに暗示をかけ寂寞と哀愁に駆られようと苦心していたところ、村長とその息子の会話が聞こえて来た。
「父さん、俺はやはり納得がいかない」
「──」
「あいつは既得権益層の、なかでも五芒星騎士団なんだぞ。それっていったら、言ってみれば搾取担当……俺らを虐げた連中の最たる奴らじゃないか」
「そうじゃな、だがあいつは死に対して無敵の精神構造しとるぞ。死刑じゃ、罰が罰にならん。困惑しとるのは何もお前に限った話じゃない」
息子からの責め立てるような視線を、村長は素直に受け止めている。
リナベールにとって何が罰になるかという問題がまともな答えに行きつかないことは理解できたが、結局のところ、それでは自分たちが救われないのだ。
自分たちが恐れる苦痛、すなわち死を以て罰を受けるのでなければ、どうしても罪が清算された実感が湧かないのだ。
自分たちの理解が及ばない法則で勝手に苦しまれても、そんなものはリナベール・トールが“そう感じている”というだけに過ぎない。
しかるべき断罪が通用せず、相手のルールに合わせて罰が下されたということになっているに過ぎないのだ。
「こんな掌の上みたいな状況に持ち込んだのに俺たちはつくづく、あいつらに歯が立たないんだなって…」
「返す言葉もない」
村長は息子の言を聞き届けた。本当のところ、村長自身もまた同じ考えに行き着いていたからだ。
刑罰とは、相手に清算を要求するためだけのものではない。それを通して、関係者各位が納得し、過去と決別できるかたちでなければならない。
そういう意味で、この度の処断はどこまで行っても片手落ちなのだ。
加えてその内容が自分たちと同じ生活を送るという、それ自体が納得しかねるものである。
リナベールへの罰であると同時に、彼女から郊外へなされる軽蔑意識の表明でもあると言える。
苦しみの大きさだけ、こちらまで否定されるのだ。それは果たして、本当に正しく勧善懲悪が機能していると言えるのか。
この場を去った村人たちも、奥底では同じようなことを考えているのではなかろうか。
ただ、それ以外の落とし所が見つからないというだけで、形ばかり自分を納得させる以外なかったのではなかろうか。
「しかしな、息子よ」
村長が息子の揺れる眼を見つめた。
「単なる暴力に訴え、相手を押し除けるやり方に固執する必要はない。結局、その道はミトラスに通じておる」
息子は何かに気づいたような眼で村長の,眼を見つめ返した。
「奴らと同じであってはならん。俺たちには俺たちのやり方が、生き方がある。それを貫こう。先人が残した偉大な言葉を思い出すんだ」
「『善をもって悪に打ち勝て』…」
「うむ、俺たちは今までそうしてきた。耐え忍んできた。であればこそ、その生き方が正しかったと信じたい。あいつらが過去に囚われているなら、俺たちは未来を見よう。目線を上げて先を見据え続けよう。それが、俺らにできるあいつらへの最大の反撃なんだよ」
「うん……」
「それに、思えばあのリナベール・トールという娘も哀れなもんよ」
そういうと、村長は目線をリナベールに向けた。
そこには縄で縛られて涙を浮かべながら、ゲラゲラ笑うヴォルカノスキーが指先に灯した火を喉元に突きつけられて「ギブギブ」と声を漏らしているリナベールの姿があった。
「ミトラスの洗脳教育とは恐ろしいもんだ。人が、生物が生き残るうえで死への恐怖は欠かせない。それを他人の都合で封じ込められ、死をも恐れず、故に人の痛みもわからず非道に手を染めることにも躊躇がない」
「半分以上、あの二人のうちどっちについて言ってるのか分かりません」
「──」
憤怒の悪魔によって殊勝な雰囲気を乱され、村長はバツが悪そうに咳払いした。
「それに、俺はな。こうも考えるんだ」
それまでの話を切り替えるように空を見上げて、これまでの世の流れを想いながら村長が言葉を続ける。
「時代は変遷する。ならば、俺らもそうあるのが自然な在り方なのではないかと。郊外に限った話ではなく、ミトラスについてもだ」
「何を──」
「郊外とミトラスの軋轢を今なお続行させる最大の要因は、互いの“不理解”だと、俺は思う」
「それを取り除いて、関係が修復されるのを望む、と?」
「途方もない苦難の連続だろう。しかし、踏み出さなければ始まらない。
──息子よ。お前が生まれたときに、喜びながらもどこかで思ったもんだよ。こんな碌でもない世界に生み落として良かったのか、とな」
「──」
「そんな思いを、これから先も俺らの子孫がし続けるなんてな。そりゃあ気落ちする。俺はこの因果を何処かで断ち切るべきだと思う」
「何故そんな話をいまここで……」
「その架け橋に、あのリナベールという娘がなってくれたらと思っとる」