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百恵さんの 引退を 知ったとき 胸の奥から 何かが 揮発した
ありきたりの ことばでは 表現できない
何か
つやつやとした 優しい 温もりのようなもの
あとに のこったものは
大切なひとに 逢えないときのような カサカサとした せつなさ
どうしたら いいんだろう
もうすぐ 旅立ちなのに
新しい世界への 希望と不安が つきぬける
そんな 春だった
　
半年が 過ぎ 秋になった
百恵さんが ひさしぶりに スタジオで 歌ってくれた
　
　　　『さよならの向う側』
　
いつもと 何も かわらない　
艶やかな ひかりに つつまれていた
へぇ～
あのこが 今週も１位になった
夜ヒットに でたのも あっという間だったけど
そうそう
結局「エクボの秘密」って 何だったの？
ちょっと 前まで
同期の桜なんだから ガンバレよ！
なんて
いっしょに上京した 仲間みたいに 思ってた
ショボくれている自分とは 大違いだ
出世したな～
　
百恵さんが そばに来て お祝いの ことばを かけてくれた
少女の ひとみが すこし うるんだような 気がした
ブラウン管が 描きだした 遠い 遠い べつの 世界の 出来事
でも
たしかな「時間」だけは 共有していた
ものすごい 何かが こころを ふるわせた
ほかの だれもが 気付かなかったとしても
確かに 感じた
百恵さんの 大きくて 艶やかな ひかりが
ゆれ はじめた ばかりの 小さな 輝きを そっと 優しく なでた
何かが 伝えられた
そのときは わからなかった けれど
この世に ひとつしか ないもの
そんな 気が した
　
再起動した 青春
あのこの 歌声が 笑顔が すべてを かえていく
しおれかけた「清泉の愛」が
また
胸の奥で ふくらみ はじめた
　
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